—— きもの初心者さんが“迷わず選べる”素材のおはなし
前編では、「絹ってどんな素材?」「なぜ日本で大切にされてきたの?」というお話をしてきました。
絹が特別扱いされている理由に、少し触れていただけたでしょうか。
では、近年よく目にするポリエステル(化繊)の着物は、絹とどう違うのでしょうか?
「絹は高級」「化繊は手軽」とざっくり分けてしまいがちですが、実はどちらにも良さがあります。
ここでは、『絹と化繊の“ちがい”と“使いどころ”』を、できるだけやさしく整理していきます。
絹と化繊、どう違うの?
絹と化繊を比べるとき、ポイントはだいたい次の3つです。
1. 着心地のちがい
2. 見た目のちがい
3. 扱いやすさのちがい
この3つを軸に見ていくと、どちらも“使いどころの違う良い素材”なのだと理解しやすくなります。
絹の魅力は「肌ざわり」と「艶」
絹は前編でも触れたとおり、自然素材のなかでも特別な存在です。
・肌に触れたときのしっとり感
・身体に沿うしなやかさ
・光の角度で変わる深い艶
これらは、繊維の断面が三角形であることや、糸そのものの細さ・均一さによって生まれる特性です。
そのため、見た目も動きもやわらかく、着姿が美しく見えるのが大きな魅力です。
礼装や晴れの日の装いで「正絹」が選ばれる理由は、まさにこの“品のある表情”にあります。
化繊(ポリエステル)の魅力は「手軽さ」と「丈夫さ」

一方で、現代の化繊は大きく進化しています。
特に、東レシルックやセオアルファといった高機能素材は、昔の「パリッとして硬い化繊」とはまったくの別物です。
・自宅で洗える
・シワになりにくく乾きが早い
・雨や汗に強い
・虫やカビの心配が少ない
とくに着付け教室に通う方は、週に何度も着るため、こうした“扱いやすさ”は大きなメリットになります。
また、繊維技術が発達し、絹に近い光沢やドレープ感を再現した素材も増え、見た目も非常に自然で上品です。
上手に使い分けると、着物生活がもっと楽になる
結論からいうと——
「絹」も「化繊」も、どちらが良い悪いではなく、場面に合わせて選ぶのが正解です。
たとえば、
絹が向くとされる場面
お祝いの席
特別な外出
“本物”の風合いを楽しみたい日
化繊が向くとされる場面
着付けレッスン
雨の日や移動の多い日
汗をかきやすい真夏
気軽に洗いたいとき
と言われていますが、これは“絶対の正解”という意味ではありません。
あくまで素材の特徴からみた傾向ですので、着物選びの際の参考程度に捉えていただければ十分です。
それでも一度は、絹の着物をまとってほしい理由
ここからは、前編と同じく“文化のお話”を少しだけ。
絹は、ただの天然素材ではありません。
日本の自然とともに育まれ、織りの技術、染めの技術、意匠の美意識が積み重なってつくられた、“日本文化そのもの”ともいえる素材です。
国内の養蚕農家や製糸工場、織元は、今まさに岐路に立っています。
生産者が減り続けるなか、伝統技術を守り、次世代に継いでいくため、日々努力を続けている方々がいます。

じつは、当教室・当社が絹を第一におすすめしている理由も、この背景にあります。
私たちは、絹製品をつくり続ける国内のメーカーや職人の皆さまと長年関わっており、その技術や情熱、そして“良いものを残したい”という思いを間近で見てきました。
また、企業として養蚕事業にも携わり、「絹を未来に残す」という文化継承の一端を担っている立場でもあります。
だからこそ、着付け教室やお客様への商品説明の場面でも、絹という素材が持つ価値を、まずはきちんと知っていただきたいという想いを大切にしています。
もちろん化繊にもすばらしい利点がありますが、絹には “衣服以上の価値” が宿っています。その価値は、袖を通した瞬間に、自然と伝わってくるものです。
一度でも絹の肌ざわり、軽やかさ、艶の奥行きを体験すれば、「これが着物か…」と、思わず息をのむ瞬間が訪れるはずです。
絹と化繊、そのどちらも楽しんでいけるように
現代は「絹か化繊か」という二択の時代ではありません。
「絹も化繊も」目的やTPOに合わせて選べる、とても良い時代です。
ただし、その前提にあるのは、「まず絹の本質を知ること」。
そのうえで便利で実用的な化繊を上手に取り入れていくことが、着物を長く、豊かに楽しむための大切なポイントだと考えています。
絹の美しさを知り、化繊の頼もしさを活かし、“きものという大きな世界そのもの”を味わっていただけたら嬉しく思います。
その一枚が、これからの日本の絹文化を未来へつなぐ、小さな一歩になるのです。
執筆:日本和装オンライン運営